「わたしのマイルストーン」第1回 蒼井まもる×いくえみ綾 スペシャル対談①

マイルストーン:鉄道や道路における起点から中間地点の距離を表すための標石。
本連載は、ゲストの方々にクリエイター人生の中でのマイルストーンを、時期・場所・出会った人の3軸から掘り下げていただくインタビュー企画です。

第1回の今回は特別編として、「OUR FEEL」にて新連載『ふつうの女の子』がスタートする蒼井まもる先生と、蒼井先生が敬愛するいくえみ綾先生のスペシャル対談が実現!

全4回にわけて、お二人の「マイルストーン」をお聞きしていきます。

いくえみ先生の背中を追い続けてマンガを描いています

-今回の対談は、いくえみさんの大ファンでもある蒼井さんのリクエストから実現したと伺っています!
まずは蒼井さんから、いくえみさんの作品の好きなところを教えていただけますか。

蒼井 ずっといくえみ先生の作品が好きだと公言してきたのですが、口に出してみるものだなと。今日は本当にありがとうございます。嬉しくて、目が泳いでいます(笑)。好きなところは一言では表せないんですけど……。私が最初にいくえみ先生の作品を読んだのは『潔く柔く』[1]でした。講談社漫画賞受賞の帯が巻かれたカンナの表紙に惹かれて本屋さんで手に取ったんです。衝撃でしたね「こんなマンガの描き方があったんだ」とびっくりして、のめり込みました。いくえみ先生の作品に出会う前と後では私自身の感覚が変わったんですよね。めちゃくちゃおこがましいことを言いますが、いくえみ先生ありきの私だからこそ今のマンガが描けているんだなと感じています。勝手に人生の一部にしちゃっているけれど、先生の背中を追い続けて今もマンガを描いています。

いくえみ 光栄です。ありがとうございます。

-いくえみさんは、蒼井さんの作品にどんな印象がありましたか。

いくえみ 編集さんが札幌にいらした時に『あの子の子ども』[2]をいただいたんです。「高校生の妊娠を扱ってるんですけど、スキャンダラスな描き方ではなくて、すごくおもしろいのでぜひ読んでみてください」と言われて読み始めたら、かわいらしい絵と裏腹に、強烈なキャラクターがたくさん出てくるんですね。全員ちゃんとキャラづけされていて、それが「いい位置」にいっぱいいる。これはすごいなと思いました。「どうなるんだろう?」ということが次から次へと起きて、一気に読みました。

-特に気になったキャラクターは?

いくえみ 主人公の福(さち)のお父さんや宝のお母さんは、すごかったですね。いい人とか悪い人とかじゃない。ああいう人を描けるのはすごいです。私なんかからは、ちょっと出てこない。あと、学校の先生たちですよね。ぼーっとした若い先生が実は熱血だったり、厳しい先生も嫌な奴かと思ったらそうでもないなと思えてきたり。産婦人科の先生たちもみんなかわいくてよかったなあ。そうやって、同じ仕事や立場の人たちがたくさん出てくるけど、ひとりひとりちゃんと全員違う。それぞれの考えや個性が見えてくるのが、おもしろかったですね。

子どもの頃から私はマンガ家になると思っていた

-そばにいそうなリアルな存在感のキャラクターは、蒼井さんといくえみさんの作品の共通点でもありますよね。

キャラクター作りについては後ほどくわしくお伺いしたいと思いますが、まずは今回の対談のテーマ、クリエイター人生における「マイルストーン」について。そもそもおふたりは野球選手の大谷翔平さんのように計画的にマイルストーンを置いていくほうですか。

蒼井 私は計画的では全くなくて、本当に行き当たりばったりで生きてきたし、これからも行き当たりばったりで生きていくんだと思っています(笑)。

いくえみ 私もです(笑)。

-マンガ家は野球選手と同じくらい、なるのが大変なイメージもありますが……?

蒼井 うーん。私はマンガ家にはなるものだと思って生きてきたので、決意をすることもなかったんですよね。私の両親はすごくマンガが好きで、家にマンガ部屋があったんです。いろんなジャンルのマンガが置いてあって、幼少期から規制もなく、きわどい描写がある作品も全部開放されていたので、ずっとマンガを読んで育ってきました。今思えばマンガの英才教育を受けていた感じです(笑)。だから小っちゃい頃から普通にマンガ家になると言っていたし、小学校の文集にもそう書きましたね。

いくえみ 私も全く同じです。自分はマンガ家になるだろうなと思っていました。子供の頃将来の夢を聞かれると、動物が好きだったので「獣医さんになりたい」とか「動物園の飼育係さん」と言っていたんです。でも、そっちの方が届かない夢だと自分でちゃんとわかってたんですよ。私にはマンガしかないだろうなと感じていましたね。その点では、計画どおりなんですけど。

-そしておふたりとも、デビューが早いですよね。

蒼井 私は高校2年生、17歳の時にデビューさせていただいて、今に至ります。

いくえみ 私は14歳でしたね。

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取材日:2024年12月20日
インタビュー・構成:横井周子

[1] 『潔く柔く』15歳の時に幼なじみの少年を交通事故で失ったカンナをはじめ、様々な人物の喪失と再生をめぐるオムニバスシリーズ。2009年第33回講談社漫画賞少女部門受賞。

[2] 『あの子の子ども』「高校生の妊娠」をテーマに、16歳で妊娠した福(さち)と恋人の宝(たから)、そして周囲の人間模様を描く。2023年第47回講談社漫画賞少女部門受賞。

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蒼井まもる

『別冊フレンド』(講談社)にてデビュー。主な著作は『あの子の子ども』『恋のはじまり』『さくらと先生』(以上すべて講談社)ほか。『あの子の子ども』は第47回講談社漫画賞・少女部門を受賞、2024年のアイズナー賞 ティーン向けベスト出版の最終ノミネート作品となった。
「OUR FEEL」にて『ふつうの女の子』連載中。

いくえみ綾

北海道生まれ。
1979年『別冊マーガレット』(集英社)でデビュー後、時代にマッチした名作を多数発表し、幅広い読者層を魅了し続けている。『バラ色の明日』で第45回小学館漫画賞を受賞、『潔く柔く』が第33回講談社漫画賞少女部門を受賞した。大の愛猫家。
「OUR FEEL」にて『猫のいるウチ便り』連載中。