
名古屋を拠点に、育児の傍ら漫画を描き続けるお二人。実は“ご近所”という不思議なめぐり合わせが生んだ、リアルで温かな創作トークを全4回にわたってお届けします。
―同じ時期に出産を経験され、今では同じレーベルで連載をされているお二人ですが、昔と今で生活の変化や環境の違いなど、創作に影響を感じる瞬間はありますか?
蒼井 私は、子どもを産んでからのほうが作品を出すペースが上がりました。
ねむ え! なんで!?
蒼井 もちろん、時間自体は以前よりぐっと減ったんですよ。でも逆に、「今しかできないから、ここでやる!」っていうスイッチが常に入るようになってしまって。だから、不思議なことに、一番大変なはずの乳幼児期がいちばん生産的だったんです。むしろ、子どもが小学生になって自分の時間が増えた今のほうが、少しペースが落ちちゃって。たぶん、生活に慣れちゃったんでしょうね。
ねむ そういうのあるよね。自分を追い込んで、アドレナリンで走り抜けるタイプのやつ。私は、産前の頃は『ふつうの女の子』の仁美さんみたいに、「子ども産まれても今まで通り働ける! 19時まで預けてバリバリやるぞ!」と思っていたんです。でも実際は、想像以上に自分が子どもとの時間を欲してしまって……。それで自然と仕事の量を減らして、ページ数も減らしていきました。やっぱり、睡眠だけは絶対に削れない! 寝不足になるともうすべてがダメになる。気持ちも落ち込むし、仕事もうまくいかない。健康じゃないと何も回らないんですよね。
―仕事の量を減らしたと仰っていましたが、ねむ先生の産後復帰はかなり早かった印象です。『君に会えたら何て言おう』のあとがきを読んでそう感じました。
ねむ 取り残されるのが怖かったんです。実際、半年くらいお休みしたんですが、描かないと本当に勘が鈍るんですよね。絵を描くスピードも、漫画のテンポも、感覚が少しずつ鈍っていく。それに、私の場合「漫画を描く」ということがずっと自分の中のアイデンティティだったので、“描いていない自分”が途端に無価値に思えてしまったんです。
蒼井 その感覚、わかります。漫画家のようにアウトプットする職業だからこその葛藤ですよね。私も、産後に“何も生み出していない自分”がすごく怖かったです。長い目で見れば、子どもを産み、育てること自体がとても生産的なことなんですけど、当時は何も生み出していない日々がものすごく非生産的に感じられて、焦燥感に駆られていました。でも、あの日々がなければ『あの子の子ども』は絶対に生まれてなかった。そう思うと、今では本当にありがたい時間だったなと思います。
ねむ 当時はとにかく焦りがたくさんあったから、「早く戻らなきゃ、描かなきゃ」と思っていて……。でも、その焦りのまま詰め込んで描くというのは、やっぱりあまり良いことではなかったなと今は思います。だから今は、少しペースを落としてやっていこうと思っています。
―その苦しみの中で数々の名作を生み出してこられたにもかかわらず、「良いことではなかった」と振り返られる姿勢がとても印象的です。
ねむ 当時の私にとっては、数をたくさんこなすほうが楽だったんです。本来なら“数”よりも“面白い漫画を描くこと”に尽力すべきだった。なのに、それが難しいから、とにかく数を増やして、「私はこれだけやったから大丈夫」と安心するようなやり方をしてしまっていたんです。結果的に生活も荒れて、何も大事にできなくなってしまった。人としても、あれは本当に良くなかったなと感じています。それに、それぞれの作品に対して「もっとできたのに」と思う部分があるんです。特に作画面なのですが、数をこなすには、どうしてもこだわりを削るしかなかった。でも今思えば、絵を描きたくて始めた仕事なのに、そこを削るのは違うし良くなかったなと。
―ライフステージが変わるなかで、さまざまな葛藤を抱えながらも漫画を生み出し続けるお二人。どちらかといえば、描きたいことはたくさんあるのに、生活や体調が追いつかない……そんな悩みを感じましたが、アイデアの枯渇はないのでしょうか?
ねむ&蒼井 ありますよ……(笑)。
―失礼しました(笑)。そういったときは、どのようにして乗り越えているのでしょう?
蒼井 やっぱり、降って湧いてくるものではないですよね。自分から掴みにいかないと出てこない。だから、常にアンテナを張って、人と話したり、異業種の方を紹介してもらったりして刺激をもらっています。それこそ、ねむさんは色々なジャンルに詳しくて、話していて楽しいし、勉強になるんです。やっぱり、これだけ博識だからこそあんなに重厚な漫画が描けるんだなって思います。
ねむ 私の場合は、もう乾いた雑巾を絞るような作業なんですよ! 若い頃は自然とアイデアが出てきたけど、年齢のせいか今はどんどん鈍くなっていく感覚がある。だから、人とたくさん話して、それを呼び水にしてアイデアを引き出している感じです。あと、やっぱり漫画を読まないと漫画は描けない。読んでいないと、どんどん痩せていく感じがしますね。それと、私はお気に入りのイラストや写真を眺めてイメージを膨らませると脳が元気になるのか、自然とアイデアが出てくるなと感じます。
―4回にわたり、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。最後に、改めてお互いにエールを贈るとしたら、どんな言葉をかけたいですか?
蒼井 ……大好き!
ねむ 私も大好きだよ! あの日「逃さないぞ」って思ったから届いてよかった(笑)。あと、蒼井さんは、すでにすごく頑張っていらっしゃるから「無理しないで」って思うんですけど、それでもやっぱり頑張ってほしい! まだお若いから、今がやりどきかもよ?って。
蒼井 そう、働き盛りなんです! もっと頑張りたいです。
ねむ 頑張れるのって、羨ましいことだよ。頑張ってね!
蒼井 お互い、健康第一で頑張りましょうね。私はこれからも、ねむさんの漫画をずっと読みたいので……。ねむさんが描いている限り、私も描きます。あ、今度人間ドック行きましょうね!
<完>
取材日:2025年9月17日
インタビュー・構成:ちゃんめい
㊗️OUR FEEL COMICS創刊㊗️
OUR FEEL COMICS創刊に合わせて、10~12月の3ヶ月に渡り
「OUR FEEL COMICS 創刊フェア」が開催中📚✨
和山やま先生によるOUR FEELイメージキャラクターのしおりももらえる🫰
詳細は下記URLをチェック👀
2004年『FEEL YOUNG』に掲載された『ナイトフルーツ』にてデビュー。初連載作『午前3時の無法地帯』がヒットし、2013年に実写ドラマ化。2023年には『こっち向いてよ向井くん』がTVドラマ化。ほか代表作に『トラップホール』、『とりあえず地球が滅びる前に』、『神客万来!』など多数。
「OUR FEEL」にて『たぶんここから始める恋』連載中。
https://x.com/nemuyoko
『別冊フレンド』(講談社)にてデビュー。主な著作は『あの子の子ども』『恋のはじまり』『さくらと先生』(以上すべて講談社)ほか。『あの子の子ども』は第47回講談社漫画賞・少女部門を受賞、2024年のアイズナー賞 ティーン向けベスト出版の最終ノミネート作品となった。
「OUR FEEL」にて『ふつうの女の子』連載中。
