
「どんな作品があるの?」「どんなところが面白いの?」
作り手である作家や編集者も伝えたいことはたくさんありますが、読み手にとって信頼できるのは実際読んだ人の感想ですよね。
そこで、読者代表としてマンガ大好きなお二人をお迎えして、最速読書会を開催しました!
※この記事では、2025年11月13日にYoutubeで公開された動画の模様を一部編集してお届けいたします。
宇垣美里|フリーアナウンサー・俳優。1991年 兵庫県神戸市出身。2019年3月にTBSを退社し、現在はドラマ出演やラジオパーソナリティー、執筆業など幅広く活躍している。週刊文春、女子SPA!などで漫画や映画のコラムを連載中。
現在、テレビ東京で放送中の不妊症の主人公を描いた大人のラブストーリー、木ドラ24「できても、できなくても」にて民放初主演を務め、話題を呼んでいる。
一穂ミチ|小説家。2022年『スモールワールズ』で吉川英治文学新人賞、2024年『光のとこにいてね』で島清恋愛文学賞、『ツミデミック』で直木賞を受賞。BL漫画の原作担当作に『オンリー・トーク』(漫画・志村貴子)等。「好書好日」にて「一穂ミチの日々漫画」を連載中。
司会・神成明音|OUR FEEL 編集長。担当作に、『オレの妹に勝てる気がしねえ』、『たぶんここから始まる恋』、『君のクイズ』、『ねんねんころころ』、『女の園の星』、『脱落令嬢の結婚』、『発達障害なわたしたち』他多数。
オープニング
神成:
OUR FEEL COMICS presents、『マンガ大好きな私たちの最新女性マンガ最速読書会』!ここは弊社の会議室なんですが、すごい信じられないぐらい豪華なゲストのお二人が来てくださっております。
宇垣:
宇垣美里です。よろしくお願いします。
一穂:
一穂ミチです。よろしくお願いします。
神成:
今日お二人に来ていただいたのは、私が編集長を務めておりますOUR FEELというレーベルで単行本を出すことになりまして。
宇垣・一穂:
おめでとうございます!
神成:
ありがとうございます! 毎日たくさんの新しいマンガが生まれていく中で、どうやったら見つけてもらえるのかなと考えた時に、マンガが大好きかつ言語化するのがお上手な方に感想をいっぱい喋っていただくのがいいんじゃないかなと思っておりまして。
宇垣:
お声がけいただきありがとうございます。
一穂:
光栄でございます。
神成:
では早速ですが、お二人はOURFEELというレーベルでご存じの作品はございましたか?
「ファッション!!」
はるな檸檬先生

一穂:
私は『ファッション!!』ですね。でもOUR FEELの立ち上げからサイトを追っていたんで、大体読んでるっていう感じではあります。
宇垣:
私も『ファッション!!』はずっと読んでいますけれども、本当にあった怖い話ですよね、これ。
一穂:
マジでそうなんですよね。こんな人が身近にいたらたまったもんじゃないなって。
神成:
ファッション業界の華やかなところを読んでると思ったら、めっちゃ怖いところが…。
宇垣:
お仕事漫画でもあるんですけど、「人間怖い」なんですよね。
一穂:
我々は作品の中で裏側も一緒に読んでるから、こいつヤベえって思えるんですけれども。登場人物になりきると、ジャンくんの本性に気づいてないまま心酔してしまったり、支えてしまったりしてしまうのかもしれない。そうすると、現実の周囲の人間も違う目で見ちゃいますね。お前もしかして、みたいな。

宇垣:
私、服がすごく好きなので、「私が大好きなあの人たちもこんな道のりを通って今ここに…?」みたいな気持ちになって。服に対して見る目線が変わったなっていうのもありました。

『ファッション!!』1話はこちらから!
ourfeel.jp
「私たちが恋する理由」
ma2先生

同作のスピンオフ『僕たちが恋する理由』もOUR FEELに掲載中。
神成:
もう一作、『私たちが恋する理由』もお二人ともお好きとお伺いしました!
宇垣:
これ、たまりませんよねー! 私、少女漫画を読むのが好きで。高校生同士が手を繋ぐかどうかで「キャー!!」みたいなのがすっごい好きなんですけど、大人になるとそういうのなくなったりするじゃないですか。
神成:
わかります…!
宇垣:
大人の職場恋愛ものって、もっとドロドロしていたりとか、プライドとか意地とかで「大人ややこしい!」ってなりがち。でももっとシンプルに「大好きで、でも言えなくて」みたいな、恋愛のすごく綺麗で守りたい大切な心の近くの部分が描かれていて。
一穂:
わかります。すごく恋愛の本質みたいなところがあって。皆さん普通の男女なのにちゃんと運命なんですよね。
神成:
すごい! 最高の褒め!

一穂:
やはり社会人も歳を重ねてくると、「会社で恋愛にうつつ抜かすな」みたいな目線が残念なことにちょっと入ってきてしまうんですよ。
宇垣:
「仕事をせえ!」って。
一穂:
「私用で残業するな」とか。でもそういうところは社会人としてちゃんとしつつの恋愛っていうね。「目が合ったら嬉しいな」とか、「仕事で助けてもらってキュンとしてしまう」とか、そこら辺のさじ加減も絶妙ですよね。

宇垣:
だからまさに「夢」なんですよね。私たちの夢であって、ないことは知っている。ただ夢ぐらい見させてくれよ、と。それに支えられたりとか、ちょっと癒されたりする瞬間ってあるのよねって思いながら。
一穂:
あと、とにかく絵がお上手なので! 皆さん美男美女でもう本当に眼福。
宇垣:
それでいて非常にシンプルなラインっていうか、見ていることに引っ掛かりがないんですよね。

一穂:
ないですね。あとモテ感もすごいリアルなんですよね。
宇垣:
そう!服とかも可愛いし、いちいち良い!と思っています。
一穂:
なんか、新しい栄養素が行き渡る感じがしますよね。
宇垣:
滋味深いです、すごく。
神成:
嬉しい。お二人ともすごく楽しんでくださっているのがわかって、めっちゃ嬉しいです。
『私たちが恋する理由』1話はこちらから!
ourfeel.jp
「SUGAR GIRL」
ヤマシタトモコ先生

神成:
OUR FEELはサイトを立ち上げてから丸一年経ちまして、今度10月から紙単行本を定期的に刊行することになりました。まず10月刊の1冊目はヤマシタトモコさんの短編集です。
宇垣:
大好き!!
一穂:
ね。まずは「漫画うめえな」っていう感想になっちゃうんですよね。
宇垣:
どれもこれもお上手ですよね。
一穂:
そうなんですよ。もう「うまい」を感じさせないんだけども、「よく考えたらめちゃめちゃうまくないか!?」みたいな。達人なんですよね。
宇垣:
絵といい、構成といい、そしてやっぱりそのメッセージといい。読んでいて、女の子の背中をバシンと押してくれるような作品が多いなと思っています。あと、人と人との間にどうしようもなくある深い溝、絶対に分かり合えない部分ってあるじゃないですか。あなたが見ている青と私が見ている青が一緒かどうかって、もう一生分からない。そこの整合性をとることはできないんだけど、「多分これとこれが青ってことでいいよね」って2人の間の落としどころを探しながら他者と共に生きているわけじゃないですか。
神成:
摺り合わせをしながら。
宇垣:
その絶望と、それでも生きていこうとする姿勢みたいなものをすごく見せてくれている気がして、いつも「救われる!」って思いながら読んでる。

一穂:
バッドエンドを書く時もすごく誠実なんですよね。誠実で、いつも人間の尊厳みたいなものに深く触れてくださってるなっていう感じがして。これは短編集なのもあって、「ヤマシタトモコ」という才能のパレットに好きな色を出して、ライブペインティングしてくださったような勢いっていうか。そのワンテーマでのジャンプ力みたいなのを見せてくださっていて、また長編とは全く違うヤマシタさんの素晴らしさがわかる一冊になっていると思います。
神成:
長編のヤマシタさんの良さが味わえるのが前作の『違国日記』で、今回は短編が7本入っている単行本なので、短編もめちゃくちゃ上手いんだということが伝わるといいなと。前作『違国日記』は、宇垣さんもいっぱいレビューを書いてくださっていましたね。
宇垣:
大好き!!
神成:
私もです! 『違国日記』からヤマシタ先生作品を読み始めた方にとっては、もしかしたら結構びっくりするのかな?とも、ちょっと思ってるんですけど。
宇垣:
確かに。でも『HER』(祥伝社)を読むと、あのファイティングスピリッツというか、拳感みたいなのは共通するものかなと。『違国日記』もちゃんと怒りを描く瞬間ってすごくあったと思うし、そこが根底にありましたよね。その部分がより表面上に出てきた感じがします。
一穂:
そうですよね。いろんなパンチでぶん殴られる。今度はジャブだぞみたいな。
神成:
最高!! 『違国日記』はやっぱり怒りを包んで出してくださっていたなっていう感じがするんですけど、それをそのままスッてお出しいただいたような、ヤマシタさんそのものを浴びられるような短編集になってるのではと思います。
あと、私『SUGAR GIRL』ですごい好きなところがありまして。
「SUGAR GIRL」(単話)
ヤマシタトモコ先生

一穂:
表題作の「SUGAR GIRL」ですね。
神成:
はい。ヤマシタさんの見開きの上手さというか。
OUR FEELはWEBでの掲載なので、片ページずつ見る人が多かったと思うんですけど、紙になったら見開きで見やすいんですね。
見開きの上下で、違う話をしているシーンがあるんです。関連している話を違うペアがしているけれど、「あっそうだったんだ…」とザザザザーッと波が押し寄せるように理解させられてしまう。

宇垣:
どんどん…「…え? 気持ち悪い! 気持ち悪い!! 気持ち悪い!!!」みたいな。
神成:
そうなんですよ〜! 押し寄せてくる。
一穂:
キャラクターと一緒に追い詰められちゃう。
宇垣:
先ほども一穂先生とお話ししていたんですけど、同じ人間だと思っていた相手とこんなにも持っている言語が違ったんだっていうことに気づく瞬間が、人生でもあるじゃないですか。
一穂:
あります。急に何か「えっ?」て。
宇垣:
「えっ? そんな感じの、心根が全然違うタイプの人だったんだ」みたいな。だからすごく思い出される自分の記憶もあり、余計に心がぐちゃぐちゃになりました。
一穂:
作中ではクマに例えられたりしてるんですけど、よく「羊の皮をかぶった狼」とかも言うじゃないですか。でも、本当に怖い人って羊のまま噛みついてくる人。分かりやすく毛皮を脱いでくれない。
宇垣:
悪いとも思ってないから、別に怖い顔もしないんですよね。
一穂:
そうそう。その辺の恐怖感っていうのがすごく描かれていますよね。
宇垣:
でも、また美しいんですよね、そのクマたる方が。すごく美しくて、なんなら聖母マリアみたいな空気を出しているもんだから…。余計に「いるんだろうな」みたいな。
神成:
怖すぎる…。たたえている雰囲気は柔らかいし美しいから、多くの人が「優しい人なんだろうな」と先入観を持ってしまうけれども、「違うよ! 隣にいる人でも、何を考えてるかわからないんだよ」ということを、ここまでわかりやすく描いてくださって、皆さん痺れてほしいなと思います。

一穂:
ヤマシタさんはすごくネームもお上手なので、モノローグとかセリフの言葉一つ一つもさりげなく放たれているものにすっごい重さがあって。多分買って読んで「今、自分にはこれちょっとわかんないな」と思っても、絶対これがわかる瞬間って来ると思うので。
宇垣:
来ます。(断言)
一穂:
手元に持っておいていただきたいなというふうに思いますね。
神成:
お二人とも言語化が素晴らしすぎる…。ありがとうございます。
「死神」(単話)
ヤマシタトモコ先生

神成:
OUR FEELで掲載された『死神』についても触れさせてください!
70ページぐらいある作品なんですけれども、この中のぶつかりおじさんの話をぜひ。
宇垣:
私はあれ、すっっっごくよくわかると思いながら読んでいたんですけど。
神成:
皆さんすごい重みを感じたと思います、「(すっ)ごく」のごくに。

宇垣:
たとえば、私が女性であるとか華奢であるということで、ぶつかってきたり、なめた態度を取られたりする人ってまあ、いまして。そのたびに「私が常識的な人間だと信じてくださってるんだ、すごーい」って思うんですよね。「殴りかからないって信じてるんだ!」って。
神成:
おめでたいですねって。
宇垣:
そうそうそう。でも、ギリギリの「超えたろかな」みたいな気持ちってあるじゃないですか。「もう我慢ならん」と感じる瀬戸際のラインをリアルに描いてくださっていて。
神成:
すごい分かります。「やる/やらない」の間に太い線が引かれているようでいて、全然いつでも超えられるんだからなっていうことですよね。
一穂:
表面張力の震えがずっとあって、そこからもう零れてしまったもののことも描かれていたり、いろんな気持ちになるんですよね。怒りもあるし、悲しみとかやるせなさとか、この「死神」と呼ばれる主人公の女性の生き様とか、美しくて悲しいですし。
宇垣:
あと、世間一般から見たら悪者にされるであろうイリーガルな仕事をしている人が出てくるわけですけど。その人たちのモノローグややりとりも、「この人たちはこの人たちで生きてるんだよね」とすごく感じられて、優しいなと思いました。同じ世界を生きてはいないだろう人のことも捨て置かない。
一穂:
生と死が交錯して、映画で見たいぐらいに場面の流れも本当に完璧だと思います。
『SUGAR GIRL』お試し読みはこちらから!
ourfeel.jp
第1回更新はここまでになります。
第2回更新は11月14日(金)正午予定❣️
10月刊コミックスについてのお話が続きます。
続きを楽しみにお待ちください。
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