「わたしのマイルストーン」蒼井まもる×いくえみ綾 スペシャル対談

マイルストーン:鉄道や道路における起点から中間地点の距離を表すための標石。
本連載は、ゲストの方々にクリエイター人生の中でのマイルストーンを、時期・場所・出会った人の3軸から掘り下げていただくインタビュー企画です。

「OUR FEEL」にて新連載『ふつうの女の子』がスタートする蒼井まもる先生と、蒼井先生が敬愛するいくえみ綾先生のスペシャル対談が実現!

お二人の「マイルストーン」をお聞きしていきます。

いくえみ先生の背中を追い続けてマンガを描いています

-今回の対談は、いくえみさんの大ファンでもある蒼井さんのリクエストから実現したと伺っています! まずは蒼井さんから、いくえみさんの作品の好きなところを教えていただけますか。

蒼井 ずっといくえみ先生の作品が好きだと公言してきたのですが、口に出してみるものだなと。今日は本当にありがとうございます。嬉しくて、目が泳いでいます(笑)。好きなところは一言では表せないんですけど……。私が最初にいくえみ先生の作品を読んだのは『潔く柔く』(集英社)*1でした。講談社漫画賞受賞の帯が巻かれたカンナの表紙に惹かれて本屋さんで手に取ったんです。衝撃でしたね。「こんなマンガの描き方があったんだ」とびっくりして、のめり込みました。いくえみ先生の作品に出会う前と後では私自身の感覚が変わったんですよね。めちゃくちゃおこがましいことを言いますが、いくえみ先生ありきの私だからこそ今のマンガが描けているんだなと感じています。勝手に人生の一部にしちゃっているけれど、先生の背中を追い続けて今もマンガを描いています。

いくえみ 光栄です。ありがとうございます。

-いくえみさんは、蒼井さんの作品にどんな印象がありましたか。

いくえみ 編集さんが札幌にいらした時に『あの子の子ども』(講談社)*2をいただいたんです。「高校生の妊娠を扱ってるんですけど、スキャンダラスな描き方ではなくて、すごくおもしろいのでぜひ読んでみてください」と言われて読み始めたら、かわいらしい絵と裏腹に、強烈なキャラクターがたくさん出てくるんですね。全員ちゃんとキャラづけされていて、それが「いい位置」にいっぱいいる。これはすごいなと思いました。「どうなるんだろう?」ということが次から次へと起きて、一気に読みました。

-特に気になったキャラクターは?

いくえみ 主人公の福(さち)のお父さんや宝のお母さんは、すごかったですね。いい人とか悪い人とかじゃない。ああいう人を描けるのはすごいです。私なんかからは、ちょっと出てこない。あと、学校の先生たちですよね。ぼーっとした若い先生が実は熱血だったり、厳しい先生も嫌な奴かと思ったらそうでもないなと思えてきたり。産婦人科の先生たちもみんなかわいくてよかったなあ。そうやって、同じ仕事や立場の人たちがたくさん出てくるけど、ひとりひとりちゃんと全員違う。それぞれの考えや個性が見えてくるのが、おもしろかったですね。

子どもの頃から私はマンガ家になると思っていた

-そばにいそうなリアルな存在感のキャラクターは、蒼井さんといくえみさんの作品の共通点でもありますよね。キャラクター作りについては後ほどくわしくお伺いしたいと思いますが、まずは今回の対談のテーマ、クリエイター人生における「マイルストーン」について。そもそもおふたりは野球選手の大谷翔平さんのように計画的にマイルストーンを置いていくほうですか。

蒼井 私は計画的では全くなくて、本当に行き当たりばったりで生きてきたし、これからも行き当たりばったりで生きていくんだと思っています(笑)。

いくえみ 私もです(笑)。

-マンガ家は野球選手と同じくらい、なるのが大変なイメージもありますが……?

蒼井 うーん。私はマンガ家にはなるものだと思って生きてきたので、決意をすることもなかったんですよね。私の両親はすごくマンガが好きで、家にマンガ部屋があったんです。いろんなジャンルのマンガが置いてあって、幼少期から規制もなく、きわどい描写がある作品も全部開放されていたので、ずっとマンガを読んで育ってきました。今思えばマンガの英才教育を受けていた感じです(笑)。だから小っちゃい頃から普通にマンガ家になると言っていたし、小学校の文集にもそう書きましたね。

いくえみ 私も全く同じです。自分はマンガ家になるだろうなと思っていました。子供の頃将来の夢を聞かれると、動物が好きだったので「獣医さんになりたい」とか「動物園の飼育係さん」と言っていたんです。でも、そっちの方が届かない夢だと自分でちゃんとわかってたんですよ。私にはマンガしかないだろうなと感じていましたね。その点では、計画どおりなんですけど。

-そしておふたりとも、デビューが早いですよね。

蒼井 私は高校二年生、17歳の時にデビューさせていただいて、今に至ります。

いくえみ 私は14歳でしたね。

本当に自分が好きなことを描き始めたら、すごく楽しかった

-10代半ばでデビューしたおふたりですが、「ここがクリエイター人生のマイルストーン(ターニングポイント)だった」という〈時期〉は、いつ頃でしたか?

いくえみ ターニングポイントが思いつかないくらい、好きなマンガをただ描いてきただけなんです。家族も協力的だし、周りの友達もみんな応援してくれたし。特に最初は本当に子供だったから、読者の反応も考えずに好きなことを描いて、それが偶然にも受けていたらしくて。当時の担当編集さんもそういうことを言わない方で、アンケートの存在も知らなかったんです。本当に、ただ描いてましたね。

-たんたんと。

いくえみ 高校を卒業する時に、ちょっと絵が上手かったので、美術の先生から「お前、マンガ家なんかひと握りの人間しか続けられないんだから、美大に行け」と何度も言われたんです。でもやっぱりマンガしか描きたくなかった(笑)。そういう勉強もしとけば後で役に立ったかなとも思いますが、結局変わらずに続けてきました。

-「変わらない」と仰りながらも、いくえみさんは作品ごとに新しい表現に挑戦されてきたようにも感じます。作品におけるマイルストーンはありますか。

いくえみ 連載するからには人気を取らないとダメなのだ、とわかってきてからは「こういうマンガが売れるんじゃないか?」と考えながら描いていたんですけど、ある時、それが本当にイヤになったんですね。「これは私が描きたいものじゃないよな」と。「もういいや」と開き直って、100ページの読切りをもらった時に好きな話をひたすら描いたら、それがなんか、すごく楽しかったんです。100ページあるのも「こんなに描ける!」とうれしかった。案の定、アンケートは全然ダメでしたが、そこからやっと本当に好きなことを描き始めた感じはありますね。

蒼井 どの作品ですか?

いくえみ 20代初め頃に描いた『10年も20年も』*3という読切りです。ちょっと高揚しながらネームをやったのを覚えています。

-4人の高校生を描いたひと夏の物語ですよね。最後まで読むとタイトルにもぐっときます。

いくえみ あのマンガでは、冒頭に出てくる「大きらいだよおまえなんか」という主人公のモノローグの意味を最後にひっくり返したんですよね。そこが気に入っています。女の子側の気持ちもずっと描かずに、一番最後に初めて明かして……。自分でも「これは新しいんじゃない?」とワクワクしました。

出産してすぐの離婚。あの時、自分も生まれ直した

-蒼井さんのマイルストーンはいつ頃でしたか。

蒼井 創作と生活は切り離せないので実人生の話になりますが、私の場合、本当に何も考えずに生きてきちゃったんです。就職については早くにマンガ家になったので悩むこともなかったし、「大人になったら好きな人とは結婚するものだ」「結婚したら子供を産もう」みたいな感じで、流されるままに生きていたんですね。今思えば、社会の空気に乗っかっていただけだったのかなと思うんですけど……。ところが実際に子供を産んでみたら、当時の夫の浮気が発覚して、すぐに離婚したんです。そこで生まれて数ヶ月の子を抱えて、「えっ、何?」と思ったんですよね。「私、今何してるんだろう? なんでこうなっちゃったんだっけ?」と考え出して、初めて自我が芽ばえたんです。育児の勉強をしていて性教育を知ったりもして、私がずっと既存の価値観に迎合してきたことと性教育の問題はつながっているんじゃないかとも思いました。

-恋愛やセックスの先を想像したり、世間で「良い」とされていることが本当に自分の求めているものなのかを考えるには、やっぱり色んな知識が大切ですよね。

蒼井 そこから、娘や、恋愛に憧れを持っている少女マンガ読者の女の子たちに、ちょっと長く人生を歩んできた女性として伝えられることがあるんじゃないかと考え始めたんです。それがきっかけで『あの子の子ども』を描き始めたので、転機は離婚だったのかなと思います。

いくえみ そうやってお話を伺ってみると、スタートは似ているけど、その後は私たち、ほぼ逆かもしれない。私はずっとフラットで、蒼井さんは生活に大きな変化があって。

蒼井 でも、あの時自分自身が生まれ直した感覚もあって、今はすごく楽しいんです。あれがなかったら多分『あの子の子ども』も描けてないし、今いくえみ先生にもお会いできてないと思うし、必要なことだったなと。あっ、元夫のことは一生許さないですけど!(笑)

-創作にも変化はありましたか?

蒼井 マンガの描き方自体は変わらないんですけど、描きたいテーマが変わりましたね。『あの子の子ども』は、初めて明確に伝えたいことがある作品でした。伝える難しさもそこで知って。反響を頂けたぶん、もどかしさを感じることや悩むことも多かったです。

いくえみ どんなことが伝わりづらかったですか?

蒼井 たとえば、主人公の彼氏の宝くんは、少女マンガのファンタジーだとすごく言われたんです。妊娠もののマンガではこれまでにもたくさん男性側が逃げ腰になる描写があったので、宝は別のタイプ、一種のロールモデルとして描いたんですね。実際に多くの若年妊婦さんを取材してきて、若い家族としてしっかり生計を立てている方たちもたくさんいらっしゃるんです。伝え方について、私自身もっと考えなきゃいけないなと感じています。

いくえみ そこで生きてくるのは、やっぱり宝のお母さんだよね。自分も若い頃に中絶の経験をしていて、福と宝の「産んで育てる」決断に反対していて。

蒼井 そうなんです。だから理屈は通っているつもりなんですけど……。伝えたいことをちゃんと伝えるってすごく難しいですね。

キャラクターはブレたらダメ

-蒼井さんはマイルストーンの時期前後でマンガとの向き合い方が変わられて、伝える難しさにも直面したということでしたが、いくえみさんの場合はいかがでしたか。

いくえみ 私は自分のマンガについては、考えなくても読めるものでいいと思っているんです。「ああ、おもしろかった」と本をとじたらおしまい。計画性がないから、プロットが全く作れないんですね。描く時はネームを1から始めて順番に描いていって、30ページなら「はい、30ページ」と終わる。だからコンセプトも何も決めていないんです。

-何度うかがっても、その創作過程を魔法のように感じます。

いくえみ でもそうやって自然に描いていたら、ある時から読者の反応として、女の子が嫌なやつだと言われることが増えたんです。蒼井さんのお話ともつながるんですが、私としては性格が悪い人を描いたつもりはまったくなくて。「こういう人ってこういうこと言うよね」「みんな、ちょっとこんなこと思っているよね」と描いたつもりが、「性格が悪い」と言われて驚いたんですね。そういうところもマンガっておもしろいなと思うんですけど。

-フィクションのリアルさと嫌なやつの表象って、何か近いところにあるのかもしれませんね。

いくえみ そうですね。本当にあることをそのまんま描くと、嫌なやつに見える。素敵な部分だけを描くと、ファンタジーの人間だということになる。

蒼井 そうなんですよ!

いくえみ 私自身はあまり夢みたいなことを考えないタイプなので、日常で見聞きしたことを思い出しながら描くんです。リアルさを重視しているつもりはないんですが、私にはそれしか描けない感じがします。

蒼井 私は編集さんから「こういう男子はどうですか?」とアドバイスをいただくことがあるんですけど、「いいですね」と言って描いていくうちに全然違ってしまうんです(笑)。だって、「この人はこういうこと言わないだろうな」と考えていくと、作者といえども勝手に動かせないんですよ。女の子の成長にフォーカスすると、強引すぎたりSすぎる男性を好きにならないよねとも思うし。……実は、私もプロットができないんです。ネームを切った時に初めてそこに人が現れる感覚があります。

いくえみ ああ、よくわかります。とにかくキャラクターはブレたらダメなんですよね。私はそこだけは頭の中にきちっとあるんです。描きたいストーリーに沿わせてキャラをデザインしたりとかは全くできないんですけど、「この人がこういうセリフを言うはずがない」という部分だけはわかっている。だからそうならない範囲で描く。入り込むんじゃなくて、上から俯瞰する人なんでしょうね。

蒼井 いくえみ先生のマンガの中でも特に好きなのが、『バラ色の明日』*4最終話の「灯(あかり)」なんです。父子家庭で育った女の子が、恋をして家から出ていくまでのお話なんですけど、読みすぎてその巻はボロボロで。主人公の彼氏の鳥居くんが大好きなんですけど、彼以外も全員「実はこんなことを考えていたんだ」と納得できるセリフがあって、次は何を言うのかドキドキします。親子で黙って歩くシーンの空気感もたまらなくて。できれば記憶をなくして新鮮に読みたいから、しばらく置いては手に取る、をずっと繰り返しています。

場所をよく知っていると、「あの時の気持ち」が明確に絵の中に入る

-次は〈場所〉としてのマイルストーンを伺います。「ここがあったから今クリエイターを続けていられる」という特別な場所を教えていただけますか。

蒼井 15歳から「別冊フレンド」編集部にお世話になってきて、担当編集さんは何度か変わっているものの、どの方もすごく親身になってくださったんですよね。私はクソガキだったから、恋愛にうつつを抜かしてマンガが描けなくなったり、別れたってなると泣きついたり、本当にひどかったんですけど(苦笑)。「OUR FEEL」でもやっぱり編集さんに支えていただいていますし、編集さんたちがいてくれたからこそ、マンガを描いてこられた。場所を概念的な「居場所」と考えるなら、マンガ家である私にとって、編集者の方々との関係は欠かせないマイルストーンでもあるなと思いますね。

いくえみ 私は家かなあ。家族の協力がなかったら、こんなにずっと、のほほんとできていないですよね。今は姉がマネージャー代わりで、ごはんも作ってくれています。実は私は一人暮らしをしたことすらないんですよ。3日間だけ家を出たことがあるんですけど、すぐに帰っちゃいました。みんなの中で一人でいるのは好きなんですけどね。

-いくえみさんのマイルストーンは、作品の舞台にもなっている出身地の北海道かなとも思っていました。

いくえみ 北海道も大きいですよね。「東京に出てこないの?」と言う人もいたけど、私が東京で一人暮らしをしてマンガを描けるわけがないです。そういえば、若い時に無理して東京の話を描いたら、「えっ、これ東京だったんですか?」と驚かれたんです。「何が違ったんだろう。ちゃんと瓦屋根も描いたのに」と思ったら、「雪の日に傘さしてない」と言われて、バレるもんだなと(笑)。

蒼井 私は生まれも育ちも愛知県なんですが、思春期のことを描くことが多いので舞台は育った街になりがちですね。場所をよく知っていると、「あの時の気持ち」が明確に絵の中に入るんですよね。

いくえみ 『あの子の子ども』の冒頭、冬の空気感がすごくきれいでしたよね。寒い感じ。「あれ、この作者の方は北国の人なのかな」と一瞬思ったけど、足元を見て「スニーカーだ、違う」とすぐにわかりました(笑)。

蒼井 バレてますね(笑)。「OUR FEEL」で始まる新連載の『ふつうの女の子』も、主人公の子ども時代から描くのでやっぱり舞台は愛知です。

なんでもない顔をして、みんな結構すごい人生を生きている

-最後のマイルストーンは〈出会い〉です。人生の転機となった出会いを教えていただけますか? 

蒼井 これはもう、娘ですね。子どもが成長していくのをそばで見ていると「私もこうやって生まれて育ったんだ」と目の当たりにするんですね。生まれ直しのような経験でもあって、世界の見え方ががらりと変わりました。娘を産んだのは私なんですけど、自分も生まれたみたいな。だから今は結構ピチピチの気持ちで、人生まだ6年目くらい(笑)。すごく新鮮な気持ちです。

-「OUR FEEL」での蒼井さんの新連載『ふつうの女の子』にも、その感覚は反映されていますか?

蒼井 はい。今お話ししたことそのままの物語っていう感じです!

いくえみ ネームを読ませていただいたのですが、この作品でも生まれたばかりの主人公・アンちゃんの周りにいろんな人たちが出てきているので、これからきっと色んなドラマがあるんだろうなと楽しみにしています。第1話のはじまりが宇宙目線っていうのが、おもしろいですよね。

蒼井 人生を描こうとしているので展開がゆっくりなんですが、あれを回収できるまで少し待っていていただけたら!(笑) 

-連載は始まったばかりですが、今後の見どころを少し教えてください!

蒼井 みんな何でもない顔をして生きてますけど、実は結構すごい人生を歩んでいますよね。そこを描きたいです。エッセイにするか迷ったんですが、フィクションなら描きたい放題だし、演出もし放題。繊細にも、キュンキュンした展開にもできるし、自由度が高いですよね。読者の皆さんの心の中に、アンちゃんという友達がひとり増えたくらいの読み味で描けるといいなと思っています。

いくえみ 絵柄はちょっと変えたんですか?

蒼井 実は『あの子の子ども』の方が見せ方を変えたくて、ペンを変えたりしていたんです。だからこちらがもともとの絵柄というか。

いくえみ すごく納得しました。『あの子の子ども』では、かわいらしい絵柄なんだけど独特のリアルさもあって、そのギャップが気になってたんです。蒼井さんの絵はキャラクターの手の動きとか体勢とかも全然パターン化してなくて、素敵ですよね。

蒼井 ありがとうございます。下手なりにいちいちポーズをとって写真を撮って描いたのが報われます……!

いくえみ 私も同じです。スマホで自撮りしていなかった時代にどう描いていたのか、もはやわからない(笑)。

蒼井 先生もですか? 私は赤ちゃんの人形も買って、ポーズだけでいいのになぜか顔もいちいち演技しちゃっているので、カメラロールがひどいです(笑)。消さなきゃ!

ずっとマンガを描き続けることが私たちのマイルストーン

いくえみ 私にとって特別な出会いは、やっぱり猫ですね。父が転勤族だったので「絶対に動物を拾ったらだめだよ」って言われてきて。子供の頃はそこらへんの猫を呼んで、家にあげようと必死でした。「もう牛でも豚でもいいから飼いたい」と言っていたと今でも母親が言うんですけど(笑)。高校生の時に友達の家で猫が生まれて親に聞かずに連れてかえり、そこからはずっと猫と暮らしています。マンガにも出しすぎじゃないかっていうぐらい出して。

-「FEEL YOUNG」で連載されていた猫エッセイ『そろえてちょうだい?』*5最後のみちくさ編では、愛猫・ブンたんの闘病が描かれていましたね。読むと泣いてしまうのですが、みんなこうやって送っているんだよなと勇気をもらいました。

いくえみ あれはね……ちゃんと全部描くつもりだったんですけど、途中であまりにもつらくなってやめてしまいました。でも先に猫を送るのはね、当たり前のことなので。こっちが先に死んでしまう方がだめだから。今は大ちゃんという猫がいるんですけど、まだ2歳なんで、私もあと15年はがんばらないと。

-「OUR FEEL」ではその大ちゃん(大福)も登場するエッセイマンガ『猫のいるウチ便り』を連載中です。

いくえみ このエッセイでは、猫だけじゃなくて、札幌での暮らしのこまごましたことを混ぜて描こうかと考えています。大ちゃんはもともと外猫だったんですけど、家猫になって落ち着いたら、前にいた猫たちのことも少しずつ触れていきたいですね。

-楽しみにしています。では最後の質問です。お二人の次なるマイルストーン、目標地点はどこになりますか。

蒼井 出産も離婚も、結局、後から「あれが転機だった」とわかったんですね。私にとってのマイルストーンって、前もって自分で決められるものじゃないんだろうなと感じています。きつい体験ではありましたけど、その後の変化を知っているから、私はまた来て欲しいです。転機があれば、また新しいマンガが描けるし!(笑) いつでもウェルカムです。

いくえみ すごく個人的な話なんですけど、私は去年還暦だったんですよ。

蒼井 おめでとうございます!

いくえみ ありがとうございます。それで久しぶりに、なんだかすごく新しい気持ちになったんですね。今日の蒼井さんとの対談もそうですけど、今活躍している新しい作家さんと初めてお会いしたりするのもうれしくて。私は出不精で引っ込み思案なところがあるんですけど、還暦を機に、もうちょっと外に出ようと考えています。あとは本当に、変わらずにずっとマンガを描いていけたらいいかな。

取材日:2024年12月20日
インタビュー・構成:横井周子

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*1:『潔く柔く』(集英社)15歳の時に幼なじみの少年を交通事故で失ったカンナをはじめ、様々な人物の喪失と再生をめぐるオムニバスシリーズ。2009年第33回講談社漫画賞少女部門受賞。

*2:『あの子の子ども』(講談社)「高校生の妊娠」をテーマに、16歳で妊娠した福(さち)と恋人の宝(たから)、そして周囲の人間模様を描く。2023年第47回講談社漫画賞少女部門受賞。

*3:『10年も20年も』 高校1年の夏、不登校の問題児・江口(えぐち)が学校に現れてそれぞれの思いが動き出す。コミックス『ベイビーブルー』収録。

*4:『バラ色の明日』“いろんなカタチの愛”を描く短編連作シリーズ。1999年、第45回小学館漫画賞少女部門受賞。

*5:『そろえてちょうだい?』『そろえてちょうだい?みちくさ編』スコティッシュフォールドのブンたんら、飼い猫たちとの日常を描く4コマエッセイマンガ。

蒼井まもる

『別冊フレンド』(講談社)にてデビュー。主な著作は『あの子の子ども』『恋のはじまり』『さくらと先生』(以上すべて講談社)ほか。『あの子の子ども』は第47回講談社漫画賞・少女部門を受賞、2024年のアイズナー賞 ティーン向けベスト出版の最終ノミネート作品となった。
「OUR FEEL」にて『ふつうの女の子』連載中。

いくえみ綾

北海道生まれ。
1979年『別冊マーガレット』(集英社)でデビュー後、時代にマッチした名作を多数発表し、幅広い読者層を魅了し続けている。『バラ色の明日』で第45回小学館漫画賞を受賞、『潔く柔く』が第33回講談社漫画賞少女部門を受賞した。大の愛猫家。
「OUR FEEL」にて『猫のいるウチ便り』連載中。